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東京高等裁判所 昭和36年(く)78号 決定

少年 E(昭一九・一〇・七生)

主文

本件抗告を棄却する。

理由

本件抗告の趣旨は

原決定は本件につき1の(1)ないし(7)の恐喝行為を認定している。しかしながら、申立人は(7)のHに対しては原決定のいうように軽便カミソリを見せて脅したことはなく、カミンリは左のうしろポケツトに入れておき一度も外に出したことはないし、本件の被害者はすべて申立人の中学校の同級生またはよく知つている下級生であり、旅行にゆくからとか金に困つているからといつて借りたもので別にすごみをきかせたわけでもない。もつとも相手のうちにははじめいやだと断つたものもいたが、自分は頭を下げて何度も頼み込んで借り、約束の日に返せなかつたに過ぎない。それゆえこれら行為を恐喝と認定した原決定には決定に影響を及ぼす重大な事実の誤認があるから取り消されねばならない。

というのである。

よつて記録を調査すると、原決定の1の(7)については、S、Hの司法警察員に対する供述調書、申立人の司法警察員に対する昭和三六年五月二〇日付供述調書により、原決定記載のとおり申立人がカミソリを見せながらHを恐喝した事実を十分に認めることができるし、その他の事実についても、申立人は兇器を示したり、腕力をふるつて脅すということはなかつたとはいえ、中学時代から同級生に暴力を用いたこともあつて、いわゆる不良として被害者らに恐れられていたのであり、申立人は金品を貸してくれとしつこく要求し、あるいはにらんだり、あるいは言葉を荒くして迫り、もし要求に応じないときは害悪を加えることを暗示し、申立人がおそれられていた事実と相俟つて相手に不安の念を生じさせ、または困惑させた上、相手から金品の交付を受けた事実が認められるから、申立人のこれらの行為はまさに恐喝に当るのであつて、これと同じ趣旨の原決定には何ら事実の誤認はない。その他記録を精査しても原決定には決定に影響を及ぼす法令の違反、重大な事実の誤認または処分の著しい不当の点はないから、本件抗告は理由がない。

よつて少年法第三三条第一項、少年審判規則第五〇条により本件抗告を棄却することとして、主文のとおり決定する。

(裁判長判事 加納駿平 判事 河本文夫 判事 太田夏生)

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